「赤ちゃんのために、清潔で安全な環境を整えなければ」。そう頭では分かっているのに、体が動かない。部屋は日に日に散らかり、やがてゴミの山に埋もれていく。この状況は、決して母親の怠慢や愛情不足が原因ではありません。多くの場合、その背景には「産後うつ」や、社会から孤立した育児環境といった、母親自身が発する深刻なSOSが隠されています。出産後の女性の身体は、ホルモンバランスの急激な変化や、出産によるダメージで、心身ともに極度の疲労状態にあります。そこに、昼夜を問わない授乳やおむつ替え、終わりのない寝不足が加わります。可愛い我が子への愛情とは裏腹に、母親自身の心と体は限界寸前まで追い詰められていくのです。かつてのようにテキパキと家事をこなす気力も体力も湧かず、片付けという複雑な作業は後回しにされていきます。さらに、核家族化が進んだ現代社会では、気軽に頼れる人が身近にいない「孤立育児」も深刻です。夫は仕事で忙しく、実家も遠い。誰にも弱音を吐けず、一人で赤ちゃんと向き合い続ける中で、母親はどんどん社会から切り離されたような孤独感に苛まれます。部屋の乱れは、そんな母親の心の乱れの表れです。散らかった部屋にいると自己嫌悪に陥り、さらに気力が低下するという悪循環が生まれます。そして、汚れた部屋を誰にも見せられないという思いから、ますます人を遠ざけ、孤立を深めてしまうのです。赤ちゃんのいる家がゴミ屋敷化している時、それは母親が助けを求めている悲痛なサインです。必要なのは「だらしない」という非難ではなく、「一人で頑張りすぎなくていいんだよ」という共感と、具体的なサポートに繋げるための温かい介入なのです。