「久しぶりに帰省した実家が、足の踏み場もないゴミ屋敷になっていた」その時の衝撃と悲しみは、経験した人でなければ分からないでしょう。年老いた親を心配する気持ちと、なぜこんなことに、という怒りや無力感が入り混じり、どうすればいいのか分からなくなってしまうかもしれません。しかし、感情的に親を責めても、事態は悪化するだけです。親を説得し、行政という第三者の力を借りて解決へと導くためには、冷静で粘り強いアプローチが必要です。まず、親を責めるのではなく、その健康と安全を心から心配しているという気持ちを伝えましょう。「こんな部屋では火事になったら危ないよ」「ホコリで体を壊さないか心配だ」というように、主語を「あなた(親)」の健康に置くことで、話を聞き入れてもらいやすくなります。次に、片付けを「手伝う」という姿勢を見せることが重要です。「私がやるから」と一方的に進めるのではなく、「一緒に少しずつやらない?」「どこから手をつければいいか、一緒に考えよう」と、本人の主体性を尊重しながら寄り添う姿勢が、固く閉ざされた心を開く鍵となります。しかし、多くの場合、高齢の親だけでは物理的にも精神的にも片付けは困難です。そこで、「自分たちだけでは大変だから、専門家の知恵を借りてみない?」と、役所への相談を提案します。この時、「役所に相談=恥ずかしいこと」という親の抵抗感を和らげることが大切です。「最近は、高齢者の生活をサポートしてくれる、役所の便利なサービスがたくさんあるんだって」「専門の人が、安全に片付ける方法を教えてくれるらしいよ」というように、役所を「助けてくれる味方」としてポジティブに紹介しましょう。親が住んでいる地域の「地域包括支援センター」の連絡先を調べ、具体的な相談窓口を示すことも有効です。それでも親が拒否する場合は、まずはあなただけでもセンターに相談してみてください。センターの職員は、このようなケースに数多く対応してきた専門家です。本人への適切なアプローチ方法を助言してくれたり、場合によっては民生委員と連携して訪問してくれたりすることもあります。時間はかかるかもしれません。しかし、諦めずに、親の尊厳を守りながら、行政という社会のサポートシステムへと繋いでいく。それこそが、家族にできる最大の愛情表現なのです。