父が亡くなり、十年ぶりに足を踏み入れた実家は、私の記憶の中にある温かい家ではありませんでした。玄関のドアを開けた瞬間、鼻をつくカビとホコリの匂い。そして、目に飛び込んできたのは、床が見えないほどに積み上げられたモノ、モノ、モノの山。リビングも、台所も、父が寝ていたはずの和室も、すべてがゴミの城の一部と化していました。一人暮らしだった父が、いつからこんな生活を送っていたのか。なぜ誰も気づけなかったのか。後悔と絶望で、その場に立ち尽くすことしかできませんでした。近所の方からは、「早く何とかしてほしい」と遠回しに言われ、焦りとプレッシャーで夜も眠れませんでした。どこから手をつけていいのか皆目見当もつかず、途方に暮れていた時、インターネットで「ゴミ屋敷 空き家 専門」と検索し、ある業者に連絡を取ることにしました。電話口の担当者は、私の混乱した話を静かに聞いてくれ、「お辛いですね。まずは一度、状況を見させてください」と言ってくれました。その言葉に、少しだけ救われた気がしました。見積もりに来てくれたスタッフの方は、モノの山を前にしても顔色一つ変えず、遺品整理も兼ねて作業を進める手順を丁寧に説明してくれました。作業が始まると、ゴミの中から父の若い頃の写真や、私宛に書かれた古い手紙が見つかりました。スタッフの方はそれを丁寧に脇に分け、「これは大切なものですね」と手渡してくれました。ただゴミを捨てるのではなく、父の人生の最後の断片を一緒に探してくれているようでした。数日後、全てのゴミが運び出され、がらんとした家を見た時、私は涙が止まりませんでした。それは悲しみの涙ではなく、父をようやく供養できたという安堵の涙でした。ゴミ屋敷の片付けは、残された者にとって、故人との最後の対話なのかもしれません。
相続した実家はゴミの城だった私の片付け奮闘記